Fortune 07


 は、決めたことはやり通すよ。



 ふぉふぉ、と笑うクリフの前でカイは数瞬固まっていた。
「は……ですがうちの部隊は最前線を任される……」
「そう、危険……じゃな、確かに。
 じゃが先の作戦で多くの人材が失われたことは忘れてはおるまい。
 言ってみれば適材適所じゃよ」
「だからといって……」
なら大丈夫だよ」
 あっけらかんと答えたにカイが勢いよく振り返る。
「戦場の最前線がどんな場所か分かっているんですか!?」
 荒らげられたカイの声にはやや顔をしかめた。
「そんな大声出さなくても、分かってると思うよ」
「貴女は分かっていない!」
「一番命の危険性の高い場所、だもんな戦場で」
 ふと、ほんの一瞬彼女の瞳に陰が射した。
「だけど誰かがやらなければならない。その為には力が要る。
 こう言うのもなんだけど、にはその力がある。
 だったらがその場所に行くのが一番じゃないのかな?」
 の言葉に、だがカイはまだ渋っていた。
「ですが……」
「カイだってそのつもりでを勧誘したんじゃないの?」
 カイはぐ、と息を飲み込む。
 確かにそう考えていた。
 この人物ほどの力と、治癒法術があれば戦局を運びやすくなるだろうと。
 でもそれは。
「それでも……女性をわざわざ危険に晒すことなどできません」
 知る前だった。
 が女性だと。
 言い切ったカイには次のような反応を示した。
「……ハァ?」
 不機嫌さを隠しもせず言葉を吐き出す。
「男と勘違いしたくせによく言う……」
 そこを言われるとカイは何も返せない。
 非は全面的に自分にあるのだ。
「ていうかそれ男女差別だぞ」
 はん、と嘲られ、カイはむっと口を引き結んだ。
 そんな彼をはによによと底意地の悪い顔で眺めていたが。
「……まあ、でも」
 の表情が緩められる。
「心配してくれたんだね」
 急に息苦しさを覚えた。
 でも一瞬で引いたそれにカイは頭の中で疑問符を浮かべる。
「でも大丈夫。じっちゃん曰くは強いらしいから?」
 そう冗談交じりではクリフを振り向いた。
「過信は身を滅ぼすぞ?」
「へーい肝に銘じておくよ」
 くく、と苦笑いでカイに向き直る。
「じっちゃんのお墨付きだ。
 よろしく頼むよ、隊長」
「……わかりました。よろしくお願いします」
 今笑いかけてくるを見ても何も感じない。
 一体さっきのは何だったのだろうか。
「カイよ。納得がいかないようじゃが、これも割り切ってくれ。
 男だの女だの言っておれん状況じゃからな」
 考え込むカイを、クリフはまだ彼が悩んでいるのかと勘違いしたらしい。
 カイは慌ててそうではないと手を振る。
「え、いえ。私こそさんに失礼なことを言ってしまって……」
「うんにゃ、気にしてないし。
 ――で、入団ってこれだけでいいの?」
 何か適正検査とかあるもんじゃないの?とが零すとクリフは首を横に振った。
「いや、お主には必要なかろう。もともとわし等側が引き込んだのじゃ。
 ……そういえば団服などの手配もせねばじゃな」
 クリフがふと気付いて言った言葉に、はカイとクリフを交互に見やった。
「その動き辛そうな服を?」
 着ろと?と露骨に嫌そうな顔するにカイは苦笑を漏らす。
「そんなに動き辛いわけではありませんよ。
 それにこれは防御性も高いものです。着用をお勧めします」
「規則は規則じゃからな。我慢せい」
「……へーい」
 じっちゃんはともかく、カイの着ている白と青の服などやたらとひらひらしていて動いている最中も邪魔になりそうだが……でも確かこいつはこの服でギアと戦っていたし、言う通りそんなに動き辛いわけではないのかも……?
「部屋は先に用意させてある。カイよ、案内してやれ」
「はい」
「よろしく~」
 二人はその場を後にし、まずはに割り当てられた部屋へ行くことにした。
 隣を歩くの足音を聞きながら、カイは考えに耽っていた。
 先程の遣り取りで、自分は結果として彼女が戦場の最前線に立つことを許してしまったのだ。
 これは間違いではなかったか?
さん」
「ん?」
 女性の中では身長が高めなのかもしれないが、自分や他の騎士達と比べれば十分に小柄に見える。
 こんな人を自分は戦場に連れ出そうとしているのだと罪悪感を抱き始めていると。
 ブルーグレーの瞳が自分の目線より僅かに下から見上げてくる。
 カイは思わず言葉を飲み込んでしまった。
 の迷いのない目。
 それは決心を折ることを知らない、いや、許さない目だ。
 こういう目を持つ騎士を何人も知っている。
 彼女も、その強さがあるということなのか。
「……頑張りましょう、これから」
 自分では彼女の意思を曲げることはできないだろう。
 ならば、せめて自分にできることを。
「護ります。必ず」
 宣誓するかのような言葉。
 はそれに微笑む。
「そうだね。みんなを護るために、も頑張るよ」
 カイのものとは少し違った意味合いだったが、も強い瞳のまま頷く。
 西の日が二人を照らす。
 決意と誓い。
 さあ、明日から新しい日が始まる。