助けたはいいけど……何かからまれてる?
ギアを何体も一人で相手にしているくらいだからどんな屈強な人物かと思ったが、その予想は大きく外れた。
より少し高いくらいの背丈に華奢そうな体躯。
淡いハニーブロンドの髪の奥の瞳は綺麗なブルーグリーンだ。
一言で言えば美形。
「ありがとうございました」
声を聞いて疑問のひとつは解けた。
ああ、男だったか。幾分高い声だけど。
「危ないところを助けていただき感謝します」
よくもまあそんな丁寧な口調ですらすらと言葉が出てくるものだと感心してしまう。
「いや、感謝はいいよ。無事なら」
少し素っ気なくそう言うと、予想外の反応だったのか少し困った様子だった。
「はあ……あの、貴方は?」
ここで、通りすがりの正義の味方です☆と答えたい衝動に駆られたが、寒いのでやめておくことにする。
「街にたまたまいた旅人だよ。騒がしいからちょっと様子見に」
「……避難命令が出ていたはずですが」
「そうだっけ?」
しれっとそう答えると、彼は少し非難するような顔をした。
「我々聖騎士団が警報を鳴らしました。聞いていないとは言わせません」
「ああ。聞いて……」
はて。
少し引っかかる単語があった。
我々――なんだって?
「……聖騎士団?」
「そうです」
「君が?」
「ええ、そうですが?」
「子供なのに?」
「こど……っ!?」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
そしてまともに顔色を変えた彼の様子に、
は今のが失言であったことに気が付いた。
子ども扱いは自分の最も嫌うところであるはずなのに、それを他人にやってしまうとは。
反省して謝ろうかと思ったが、それより先に傍に倒れている二人の騎士たちが目に留まった。
「そっちのお兄さん達、怪我大丈夫?」
とことこ歩み寄ると、力ない笑いが返ってきた。
「あちゃ~見た目より深いね。すぐに止血しないと」
言うなり
は今だ血液の固まらない傷口に掌を翳した。
すると温かみのある光が生まれ嘘のように傷口が塞がってゆく。
「すごい……」
「別に。これは自己回復力の活性を細胞に呼びかけてるだけ。凄いのはお兄さんの体力だよ」
そう。実際治療される側の体力の有無がこの術には必要不可欠な要素なのだ。
だから彼女は治療を受けている青年を賞賛したのだ。
「とりあえずこれで止血完了。でも血が少なくなってるだろうから輸血するなり食べて回復するなりしてね。
はい次ー。……切られた傷はそうでもないな。火傷のほうが先に処置がいるね」
てきぱきと動き回り、今は氷を生み出して火傷部分に応急処置を施している。
しかし彼女は医者の類ではなさそうだった。
医者であればもう少し丁寧に扱うだろう。
何というか、彼女の治療の仕方は我流というか、確かに間違ってはいないのだが、旅慣れた人間のもののように感じられた。
「……君は?怪我してない?」
突然話を振られ、彼女の手際のよさに見入っていた少年ははっと我に返った。
無言は肯定と受け取ったのか、
はふいっと背中を向けた。
「んじゃ、
は帰るよ。お兄さん方も気を付けて」
「待ってください」
「はん?」
立ち去りかけた
の背中に少年の声がかけられた。
その瞳は何故か険しい。
何だ、まださっきのことでも根に持っているのだろうか。
はいつでもこの場から逃げ出せるように半分だけ振り返って待った。
「その力、『気』の力ですね」
何もない荒野だからか、彼の声がはっきりと響いた。
「加えてその風貌……貴方はもしやジャパニーズ?」
やや疑心の混じった声音に
は困った顔をする。
「……いやあ、そうではないとは
も言い切れないんだろうけれど……」
ぽりぽりと頭を掻きながら歯切れの悪い言葉を並べる。
それが彼には気に入らなかったようだ。
「どっちなんですか」
「わからん、が答えだね」
両手を挙げた降参のポーズで
はおどけてみせる。
「戦災孤児ってやつで覚えてないんだよ子供の頃のこと、本当」
さらりと零された言葉に少年騎士はしまったというような表情をした。
「そんな顔すんなって。あんま気にしてないし」
はくくく、とまるで本当に何でもないことのように笑った。
「あー、でもジャパニーズってのは黒髪黒目なんだろ?だったら
は違うんじゃない?どっちも色ついてるし」
「……すいません無神経なことを」
「だーもー気にすんなって!今の世の中
みたいなのも珍しくないしな!」
ここまで気にされるとは予想しておらず、
は苦笑した。
何だ、気難しそうかと思いきや案外素直なのかもしれないな、と思っていると。
「あの」
声をかけられ
はん?と首をかしげた。
「その力を我々に貸していただけませんか?」
「……はい?」